ふじの治療室

犬と鍼灸師

『手塚治虫物語』

いつ買ったかわからないが、当たり前のように本棚に並べられている本がある。いや、そんな本ばかりかもしれない。そんな本を見つけて寝室に持っていき、まるで今日買ってきたかのようなワクワク感で表紙をめくる。最高の時間である。今日は『手塚治虫物語』を見つけた。

いきなり本の内容とは関係ないことだが、非常に読みづらい本だ。文庫本なので文字が小さいということはあるものの、文体も読みづらくて入り込むまでに時間がかかってしまう。文庫は小さいのものだが、この文庫本の文字は他の文庫漫画よりもさらに小さい。物語の中でも手塚治虫自身が“漫画に文庫サイズは小さすぎる”と不満を言っているのだがどういうつもりなのだろう。と、イライライしながら読み進めていくと次第に気にならなくなっていくので、まだ若い証拠かなとも思う。年配の本読みの方に話を聞くと「どんどん文字が見えづらくなっていくので本を読むのが億劫になる。夜はもう読む気になれない」と聞いたことある。自分もいずれそうなるのだから、読みたい本はどんどん読まないといけないなと遅読家の私は常に焦っている(焦っても読むのは遅い)。

手塚治虫は医師免許を持っているのは有名な話だ。私も知ってはいたが、漫画連載中に医師の国家資格に望んでいたというのを初めて知った。なんなんだこの人は。そして、一発合格してしまうという手塚。そのまま医師として働きながら漫画連載も続けていく手塚。病院の仮眠室で漫画を描く手塚。看護師に漫画の手伝いを頼む手塚。教授に「漫画で子供を元気付けるのも医療じゃないか」と言われ(体良く追い払われて)漫画に専念することになる手塚。しかし漫画連載を続けながら研究活動も継続して博士号をとる手塚。…感情移入する隙間が全くないではないか。なんなんだこの人は。

手塚治虫の漫画で読んだことがあるのは『ブラックジャック』『火の鳥』『ブッダ』の3つなのだが、これらは手塚治虫の漫画家人生では後半に描かれたものらしいことを初めて知る。言わば到達されたものを読んできたのだろう。そうなると血肉躍る若かりし頃に描かれた作品というものを読みたくなる。手塚治虫を読んできた患者さんがいたらオススメを聞いてみたい。

手塚治虫は60歳でその生涯を終える。そこまでの仕事量は常軌を逸していて、常に複数の作品を掛け持ちしていた。その仕事量の中で、映画を観て、本を読み、興味のある場所へ旅をしていた。手塚治虫曰く「追い込まれるほどにいいアイディアが生まれる」とのことらしい。そこで「よし、自分も手塚先生のように頑張ろう!」とはならないのが私の私たる所以である。私は私のペースで、手助けできる範囲の仕事を一生懸命やりたいと思うのでありました。